東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1750号 判決 1969年11月06日
主文
原判決を取消す。
本件訴を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、控訴代理人が「控訴会社の代表者として表示されている吉永雅洋は控訴会社を代表する資格がなく、従つて同人を控訴会社の代表者として提起された本訴は不適法である。」と述べ、当審において乙第一号証の一乃至五、第二及び第三号証の各一、二を提出し、「同第一号証の二、三及び五中吉永雅洋の記名は同人の自署にかかるものではなく、同名下の印影は同人の印鑑によつて顕出されたものではない。」と述べ、当審における控訴人代表者本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人が「乙第一号証の一乃至五の成立を認める。同号証の二、三及び五中吉永雅洋の記名及び同名下の印影はそれぞれ同人が自署し又は押印したものである。乙第二及び第三号証の各一、二の成立は不知」と述べたほかは、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。⑩理由
控訴人主張の本訴提起の適否について考えるに、吉永雅洋の記名部分及びその名下の印影部分を除き成立に争のない乙第一号証の二(臨時株主総会議事録)及び三(取締役会議事録)によれば、有限会社明和製菓は昭和四十二年八月二十四日臨時株主総会を開催し、同総会において取締役兼代表取締役多比良敏喜、同本山弘久、取締役大久保浩一、同多比良みどりから辞任の申出があり、選挙の結果新に吉永雅洋外一名が取締役に選任され、即日同人等より就任の承諾を得た旨の記載があり、かつ同総会において有限会社明和製菓の商号を有限会社東和食品に変更する旨の議決をした旨の記載があり、その議事録の末尾に出席取締役として吉永雅洋の記名押印がなされていること、また同日開催された取締役会において互選の結果吉永雅洋が控訴会社の代表取締役に選任され、同人の承諾を得た旨の記載があることが認められるが、当審における控訴人代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二及び第三号証の各一、二、原審及び当審における控訴人代表者本人尋問の結果を総合すれば、吉永雅洋は昭和四十一年五月三十日から訴外財団法人東京メデイカルセンターに自動車運転手として勤務し、右の臨時株主総会及び取締役会が開催されたという昭和四十二年八月二十四日には同財団法人に午前九時頃出勤し終日自動車運転手としての勤務に服し、右の臨時株主総会及び取締役会に出席したこともなければ控訴会社の取締及び代表取締役に就任することを承諾したこともないこと、吉永雅洋は同年十月頃同人がかつて勤務したことのある有限会社モナミの代表者であり、同会社倒産後有限会社明和製菓を設立し、実際上その経営に当つていた訴外高橋裕司から控訴会社の代表取締役に就任することの事後承諾を求められたがこれを拒絶したことをそれぞれ認めることができるのであつて、他に以上の認定を覆すにたりる証拠はない。そうだとすると吉永雅洋は控訴会社の登記簿に同会社の代表取締役として記載されているが(この点は当事者間に争がない)、控訴会社の代表取締役ではなく、同会社の代表者としての資格を有しないことが明かであるから、同人を控訴会社の代表者として提起された本件訴はその余の争点について判断するまでもなく不適法として却下を免れないというべきである。従つて本件訴を適法とし被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるから、民事訴訟法第三百八十六条の規定によりこれを取消して本件訴を却下すべく、訴訟費用の負担につき同法第九十六条前段及び第八十九条の規定を適用して主文のとおり判決する。